Readings|一句鑑賞
君といつか杖を突きゆく花野かな
あかるさのなかに、はかなく淋しい予感を抱かせる一句。
「君と」が句の最もはじめに置かれることで、その三音に込めた切実さが痛いほどに伝わる。しかし、それはいま現在の約束ではなく、遠く不確実な未来への祈りとしての「いつか」である。しかも「杖を突きゆく」ほどの未来だ。身体が衰えても、たとえゆっくりとでも、「君」と一緒に歩みたいという願いは具体的な生の実感と不安感とをともなう。
また秋の季語「花野」は華やかでありながら、どこか冬へ、喪失や終末へと向かっていくようなほのかな淋しさを含意する。まるで、ふたりの時間の盛りと衰えを同時に象徴しているかのようだ。
「君」と隣にいるいまは、決して永遠には続かない。しかし、書くことで「いま」は未来へと引き伸ばされる。一句のなかで、現在の並び立つふたりと、「いつか」の杖を突くふたりが二重写しになる。広大な花野は、そのあいだに横たわる長い歳月そのものではないか。
藤井あかり『メゾティント』(2024年、ふらんす堂)より。
2026年6月14日 弓木あき