弓木あき

Readings|一句鑑賞

雲を押す風見えてゐる網戸かな

/生駒大祐

「雲を押す風」という把握がまず大きい。風そのものは見えないはずなのに、雲が動くことで、風が空を押しているように見える。ここでは、見えないものが、動かされるものを通して可視化されている。

そして下五の「網戸かな」。空の雲を見ているはずなのに、最後に視線は眼前の網戸へ戻ってくる。遠景の雲と、近景の網戸。そのあいだに風が通っている。網戸は視覚を遮る膜ではなく、外と内とをつなぐ触覚の境界なのだ。

掲句の魅力は、広い空の運動を、網戸という身近な生活の一点から身体に結びつけているところだ。雲を押すほど大きな風が、網戸を隔てたこちら側にも来ている。夏の家の中で、遠い空と自分の身体とが、「風」によってつながる。

生駒大祐『水界園丁』(2019年、港の人)より。

2026年6月12日 弓木あき