Readings|一句鑑賞
水を吸ふ凍蝶に紋ありにけり
すっかりと弱った冬の蝶が、もうほとんど死に近い存在となりながら、それでも水を吸っている。
「ありにけり」は、たったいま気がついた、という発見の詠嘆だ。衰弱したものと見ていた凍蝶だが、ふと目を凝らせば、翅に紋がある。死の側へ傾いていた存在が、にわかに紋という固有性をもって立ち現れてくる。
生命がぎりぎりのところにあるとき、かえって存在の細部があらわになるという逆説の一句。凍えた生命のなかに、それでもなお消えない紋様を見ている。
大木あまり『星涼』(2010年、ふらんす堂)より。
2026年6月9日 弓木あき