弓木あき

Readings|一句鑑賞

樹とそれに巻きつくものと紅葉せり

/髙柳克弘

「樹」がいったいなんの樹なのか、この句では決して言及されない。「巻きつくもの」も、蔦や蔓性の植物なのだろうが、いったいなんの植物か明らかにされない。句のなかでは、ただ「樹」や「それに巻きつくもの」としか呼ばれない。そのため景は、植物学的な「名づけ」によって人為的に整理・細分化される以前の、もっとも素朴な認識として示されている。

この非対称な二者をつなぐのは「紅葉せり」という端正な結びだ。存続の助動詞「り」により、「樹」も「それに巻きつくもの」も、どちらも紅葉という状態を共有している。もしかしたら、異なる色かもしれない。名前も種類も違う両者が、別々の存在でありながらも、同じ季節のなかで巻きつき/巻きつかれ、同時に色を変えている。

「何であるか」という認識の枠組みの手前に、「他者とどう在るか」という関係性の問いが前景化する。これは人間の営みへの寓意であろうか。この抽象的かつ素朴な(いや、むしろ高度で哲学的な)文体には、特定の寓意によって意味を固定する読みを寄せ付けず、それでいて多様な読み筋を許容する懐の深さがある。

髙柳克弘「鎌と槌」(『角川俳句』2026年8月号)より。

2026年8月20日 弓木あき