Readings|一句鑑賞
冬すみれいろのねむりに溺れたし
ひらがなにひらかれた、やわらかくも湿り気に満ちた一句。
「冬すみれいろ」にまずはこころ惹かれる。冬菫は、冬の寒さのただなか、ひっそりと低く咲く可憐な花だ。その色が、掲句ではそのまま「ねむり」の色へと異化される。眠りに色があるとすれば、それは冬菫のあの冷たく澄んだ紫色なのだ、と。
本来、眠りは落ちてゆくものとして描かれることが多いが、「溺れ」と表現したことで、この眠りは水のような質量をもち、抗いがたく引きこまれてゆくものへと変わる。しかも「たし」という願望の助動詞をともなって。つまり、描かれるのは冷たい紫色のなかへと深く沈んでいきたい、という静かな願いだ。淡い紫色をした眠りに、意識ごと溺れてゆきたい。そんな危うくもうつくしい陶酔は、死の気配をかすかに帯びながら「冬すみれいろ」の水底へと向かう。
飯島晴子『儚々』(1997年、角川書店)より。
2026年7月3日 弓木あき