弓木あき

Readings|一句鑑賞

雨いつか雪へとあやとりのはしご

/佐藤文香

「雨いつか雪へと」が美しい。空から降る雨粒が、いつのまにか雪片になる。水滴の落下から舞い落ちる白い欠片へ、その変化は瞬間的ではなく、「いつか」というべき時間の幅と曖昧さをもつ。古典的でありながらも、そこには決して色褪せない情感がある。

しかし、そこへ「あやとりのはしご」が来たことで、この一句は特別な手ざわりを得た。「あやとり」の「はしご」は、糸を指にかけて作られた細い線の連なりを指す。空から降る雨や雪と、指にかかった糸の線とが、身体感覚のうえで重なり合う。まるで、雨は縦に張る糸であり、雪は空中で次の行き先を探す糸のよう。気象の変化が、手遊びの次元へと引き寄せられている。句またがりのリズムも、糸を手繰る手つきに似て巧みだ。

「はしご」もここでは単なる二物衝撃の小道具ではなく、それ自体が意味を働かせている。梯子は上と下とをつなぐもの。天から地上へ、そして外の世界から室内の記憶へ。その境界に、「あやとりのはしご」がささやかに渡っている。

佐藤文香『海藻標本』(2008年、ふらんす堂)より。

2026年6月19日 弓木あき